The people around mui vol.1

YAMADA COFFEE OKINAWA

出会ってから早いもので、4年ほどになるでしょうか。

muiでお出ししているコーヒーはYAMADA COFFEE OKINAWAさんのものです。コーヒーは大好きでしたが、全くの素人だった自分に、コーヒーの楽しさや豊かさ、世界の広さに気付かさせてくれたのは山田さんがきっかけでした。

宿で飲む一杯のコーヒーが旅のしおりになるような、そんなシーンを想像しながら、日々美味しく抽出できるように試行錯誤していますが、山田さんの豆はよっぽど下手に抽出しなければ必ず美味しく淹れられる安心感があります。

この春3月から那覇に2店舗目をオープンした、YAMADA COFFEE OKINAWA。宜野湾のお店よりもだいぶ広くなった店内にはピカピカで迫力のある新しく導入した大型の焙煎機が鎮座しています。
そして今朝も山田さんは朝早くから焙煎機と向き合います。

朝の焙煎中の山田さん

「新しい焙煎機になって朝は少しゆっくりになりました」
そう言いながら大したことではない素振りで焙煎具合を確認する。日々10種類ほどの豆を焙煎するという。「豆は生鮮食品」と山田さんはよく言うのだが、小まめに焙煎するのも素材へのリスペクトがあるから。一度に大量の豆を焙煎することはない。

「コーヒーの良し悪しはほぼ素材で決まるんですよ」さらっと言うので、すごく当たり前の言葉のように通りすぎてしまいそうになる。東京の名店の生豆を扱う部門で毎年多くの種類の豆をカッピングし、生豆を厳選してきた過去の経歴を想像すると、その言葉の指す深みが違って聞こえてくる。それは自身の仕事を謙遜しているのでもなんでもなく、どんなに腕が良い焙煎技術や抽出技術をもってしても豆が持つポテンシャル以上には仕上がらないことをおそらく、自分には想像出来ないくらいの凄みで良くわかっているのだ。

山田コーヒーに並ぶ豆はそんな星の数ほどある豆の中から選りすぐられたものしか置いていないのだけど、そこには気取ったストーリーはなくて、あるのは山田さんのただただ生産者をリスペクトする仕事ぶりだ。

「僕たちは素材を壊すことしかできない」とも山田さんは言う。「焙煎も抽出も味を壊すこと。」壊さないとコーヒーとして飲めないのだから矛盾するような気もするのだけれど、生豆自体がもともと持っている100%のポテンシャルを超えることは出来ないのだから、なるほどと納得がいく。

豆の焙煎具合を山田さんの細やかな感覚で見極める。熟練した人ほどひとつひとつの動作が自然で無駄がなく普通に見えてしまう。僕たちが呼吸や歩くことにいちいち注目しない様にあまりに自然だから。思わずそこに至るまでの気の遠くなる1日1日の積み重ねを想像する。

1kgある豆は焙煎すると800gになる。そこから神業の様なスピードで豆を選り分ける。
豆が深くまで火が通っていないもの、豆の大きさ、色、欠けたり穴が空いているもの。素人では見分けがつかない普通ははじかない様なグレーな豆までも一瞬の判断ではじいていく。こんなにたくさんはじいてしまうのかと圧倒される。
投入した豆よりもだいぶ量が減った様にみえる、ただ選ばれた豆たちは一粒一粒がただただ美しい。

常人離れしたスピードで豆を選り分ける山田さん

山田さんは深煎りが得意と思われがちだが本質は少し違う。深煎りしても豆が持つ力強い香りや酸、ボディなどの個性がしっかり開く豆を扱えることが大前提なのだ。なので別に深入りに特別こだわっているわけでもない、YAMADA COFFEEには浅入りから深入りまで素晴らしく美味しい豆が揃っている。ただ山田さんのお眼鏡に適う深入りに耐えられる上質な豆が手に入るのが実は凄いことなのだ。

そして焙煎から抽出までの工程を豆本来のポテンシャルを生かす事と表現したい味わいにするという自身のエゴとの矛盾に常に向き合っている。
そこに二元論的な安易な答えはなく、でもしっかりとした素晴らしい素材に向き合う芯の通ったブレない軸は創業から変わっていない。
それはスター選手の様なシングルオリジンの豆にも、素材を生かす素晴らしい料理の様なブレンドにも現れている。

山田さんは「焙煎師」「ロースター」と呼ばれるのもしっくりこないそう。
しっくりくるのは「コーヒー屋」。生豆を選ぶのも、焙煎するのも、抽出するのも、トイレ掃除するのも仕事の優劣はないという山田さんならではの答えかもしれない。

たまたまコーヒー屋という職業があって、日々の暮らしでコーヒーのことは呼吸するように考えているけど、そこに過度な幸せや拠り所を期待しない。
おやすみの日にお気に入りの焼肉屋さんに行くことが何より幸せだと言う彼の言葉は、飾らない人間臭さがあって大好きだ。まるで仕事を終えた新橋のサラリーマンが「今日もいい仕事をした」とビールで一杯よろしくやる人間讃歌がそこにある。

ヨーロッパの下町で細部の美しさにこだわる名もない腕の良い仕立て屋、卓越した技術を誰も気に留めないディテールにさりげなく残す下町の職人、ただコーヒー屋として日々いい仕事をする。

きっと山田さんにとって空気を吸うように普通のことが、誰かにとっての特別な一杯やいつもの日々を彩る一杯になる。山田さんの豆を扱うmuiもそんな瞬間を時折垣間見ることができるようにありたい。

コーヒーは生きるために必要不可欠なものではないけれど、コーヒーがない世界はなんと寂しいことだろう。

いつも豊かなひとときをありがとうございます。

みなさんもぜひYAMADA COFFEE OKINAWAでお気に入りの一杯に出会ってみてください。

YAMADA COFFEE OKINAWA HP: http://yamadacoffeeokinawa.com/

instagram: https://www.instagram.com/yamadacoffeeokinawa/

google map 那覇店: https://goo.gl/maps/ANk1ritrDPby49Ym8

写真/文 西悠太